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クラシコをラジオ中継する放送局の若手後輩アナウンサーとベテラン先輩アナウンサーとの会話

ここはとある放送局の音声編集室。この部屋で先輩スポーツアナウンサーと後輩スポーツアナウンサーがサッカー実況について話しあっている。実はこの放送局では、来る12月11日のスペインサッカー最大のイベント、クラシコを実況中継する予定らしい。ただ、実況と言えどそこは弱小の低予算のこの放送局が放映権を獲得できるわけもなく、なんと日本ではまだ市民権を得ていない「サッカーのラジオ中継」でクラシコを実況しようとしているのだ。そんな局の命運を担う大事な試合に期待の若手スポーツアナが抜擢された。

 

サッカーのラジオ中継。それは、日本スポーツ実況に残された最後の開拓地である。そこには彼らの想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。

 

ここからの会話はそんな若手スポーツアナと、ベテランスポーツアナが、日本人スポーツジャーナリズム最初の試みとして本格的にラジオサッカー中継という未知なる世界を探索して飛び立った、熱い情熱と熱い現場から送る驚異に満ちた物語である。

先輩アナウンサー(以下 先)「どうや?練習は?進んでるんかい?」

 

後輩アナウンサー(以下 後)「あ・・・先輩。お疲れ様です!」

 

先 「いや、練習中なんやろ。気にせんでええから続けてくれよ」

 

後 「どうも。でもやっぱり難しいですよね。サッカーのラジオ中継というのは」

 

先 「そらそうや。海外では当たり前らしいが、やはり日本ではまだまだその分野は未開拓やからなぁ~。でもそれやからこそ、開拓者精神が刺激されるっちゅう話やないか?」

 

後 「ええそうですよね。ただ手本となるものがないだけに、どうやっていったらいいのか・・・」

 

先 「おいおい。そんな弱音を吐いてどないすんねん。何と言っても我々の局の命運が掛かっていると言っても過言ではない中継なんやからな!頼むで!低予算でコネ無し、の弱小放送局の画期的な企画なんやさかい」

 

後 「そんなぁ~。余計にプレッシャーですよ!(苦笑)」

 

先 「すまん。すまん。いや、かく言う俺だってサッカーのラジオ中継なんてやったことがないやから、正直に言うとここはサッカー経験者の君に白羽の矢を立てるしかなかったんや」

 

後 「有難うございます。とにかく頑張ってみます」

 

先 「ところでどうなんや?自分では?上手くいきそうなのか?もし良かったらちょっと聞かせてくれよ」

 

後 「まだまだです。でも、何となく「感じ」は掴めてきたのかな・・・って思ってるんです」

 

先 「そうか!それは頼もしいな。毎晩遅くまで練習している甲斐があるってもんやないか」

 

後 「偉そうに言える代物ではないとは思うんですけどね」

 

先 「いや、結局やな・・・、やはりどういうんか・・・情熱というか、パッションだと思うわけよ。サッカーの試合を絶対に伝えるんだ!っていうな。上手く伝えようとか、正確に実況しようとか思わなくてええんとちゃうか?乱暴に言えば観客の一人になりきる!サポーターの一人になりきるっちゅうこととちゃうかな?」

 

後 「はい。技術やテクニック、経験がない僕にはそれしかありませんから。とにかく自分で見るサッカーを、サッカーの映像を、自分なりに、自分の言葉で伝える・・・。僕に出来ることはそれしかないように思えてきたんです」

 

先 「そう!それや!その通りやで!小賢しいテクニックなんてのは、もっと後からの話でええんや。まず、自分が目にしたその映像を・・・そのボールの動きを・・・その選手の躍動を・・・ラジオに乗せて伝えるんや。それが一番大事なんやないかなぁ~」

 

後 「尊敬する先輩にそう言ってもらえたらすごく励みになりますよ」

 

先 「それじゃ、一度聞かせてもらおうやないか。構へんか?」

 

後 「ええ。まだ自信はないんですけどね」

 

先 「練習用の編集テープでええよ。お・・・ここのファイルでええんかな?バルサvsアトレティコ・マドリーか。俺も一般視聴者になったつもりで眼を閉じて聞いてみるわ。」

 

後 「はい。それでは、このバルセロナvsアトレティコ・マドリー・・・再生しますね」

 

先 「いいよ。いつでも始めてくれ」

 

後 「解りました。では・・・」「さぁ、開始15分。右サイドでバルセロナボールを支配・・・。サイドに流れたメッシにボールが渡った。メッシ、ワンタッチで反転!速いメッシ!オオ?オ!?オオ!?オ!?オオ!!?オオオ~~~?カァ~~~!」

 

先 「・・・。右サイドでメッシがボールを触ったところまでは何となく解るが・・・その先は?その先がちょっと・・・解からんかったな」

 

後 「ええ???あれが解りません?メッシがボールを持ってカンカン、切り込んでいくステップの所ですよ?」

 

先 「そ・・・そうか。いや、言われてみればそうかもしれん。」

 

後 「はい。オオ?オ?オオオ??のリズム感と、メッシのステップのリズム感とを合わせるのに苦労しましたよ!」

 

先 「なるほど。で?最後のカァ~~!は何なんや?」

 

後 「え?あれですか?あれは当然、クロスバーに直撃したときの声じゃないですか?解かりますよね?雰囲気で・・・」

 

先 「お・・おう。そうか。バーに当ったときの音か」

 

後 「いえ。そうじゃなくって。バーに当った時のあの悔しさというか、惜しさを表現しているんです!」

 

先 「なるほどな・・・」

 

後 「次はここです。クゥ~~!オオォ~~?ドヘ~~!トオスカァ~?ソコ・・・」

 

先 「良く解らないんだが、「クゥ~~」ってのは何なんだ?」

 

後 「え~?解りません?イニエスタが狭いところでトラップした映像ですよ?」

 

先 「次のオオォ~?は、もしかしてメッシのステップか?」

 

後 「解ってくれます?そうそう!そうです!」

 

先 「それじゃドヘ~~?」は?

 

後 「その後のトオスカァ~?ソコ・・・とセットになってるんですが、メッシがペナコを切り裂いて後はシュート!と、思いきや、狭いスペースに走り込んだビジャにまだスルーを通すところですわ!」

 

先 「・・・・」

 

後 「ここのプレーも聞いてもらいたいです。いいですか?ウゥ~ワッ!ナ~ンジャコレ!」

 

先 「ナンジャコレ?って何じゃ?」

 

後 「ナンジャコレ?じゃないっすよぉ~!ナ~ンジャコレ!です!ナの後が伸びるんですわ!つまり感嘆符の音引きですね。ここまで言ったら誰でも解るでしょうけど、これはもうシャビ・エルナンデスのワントラップでの前に振り向く瞬間の実況です。リアリティを大事にしたつもりですけど」

 

先 「リ・・・リアリティー・・・ね。それじゃ悪いけどこの15分から17分にかけてのバルセロナの攻撃をもう一度実況してくれるかい?」

 

後 「はい。いいですよ。メッシ右サイドで・・・オォ~~!オ!オ!オ!クッヘェ~~!ドォ~~!ウ~ワ!ナンジャコレ!ドヘ~~!トオスカァ~?ソコ」

 

先 「解るか?それで・・・?」

 

後 「え~~?解らないっすか~?これだけリアリティ出してるのに?クッヘェ~~がイニエスタだし、ドォ~~!はシャビ、ドヘ~~!とナンジャコレ!は、ビジャの走り込みとペドロのフォローの動きですけど?」

 

先 「・・・・」

 

後 「後半30分過ぎからちょっと間延びした時間帯がありましたよね?それがここです フン。フン。オオ?フン。ホ~~。ウ~ッワ!オ!オオ!オ!オオオ~~!?クゥゥ~~~!オシ~~~ィ」

 

先 「・・・・今のもそうなんだな?」

 

後 「はい。バルサの攻撃のリズムはある意味単調でしょ?チク・タク、チク・タクという時計のリズムに似て、実は長短や緩急が実際は少ないんですよ。その辺りが実況で再現できるかどうか・・・が、凄く今不安ですねぇ~」

 

先 「・・・・そうか。そうやろうな。ところで、相手のレアルの方は?それはまた違う表現になってくるのか?」

 

後 「なってくるのか?ですって?もちろんですよ!バルサとレアルではサッカーの質が違います!そうなってくると実況も当然違うのが必然の理でしょう?」

 

先 「それならレアルのを聞かせてくれないか?」

 

後 「もちろんです。それじゃこのレアルvsビジャレアルでいきましょうか?」

 

先 「ああ。頼むよ」

 

後 「前半23分。レアルボールをキープ。エジルからボールは一旦シャビ・アロンソへ。オオ~~?ヒュ~~~!」

 

先 「そのヒュ~~~!というのは新しいな。何なんだ?それは」

 

後 「ええ~~?解りません?シャビが一振りでメチャメチャ綺麗なサイドチェンジのボールをマルセロの足元へビタリと入れたシーンですけど?」

 

先 「あ・・ああ。なるほど」

 

後 「ボールはマルセロから走り込んだクリロナへ。クリロナ・・・ステップで・・・デェ~~~!?ウツカァ~~?」

 

先 「すまん。ウツカァ~~?は解るんだが、その前のデェ~~~!?は、どういうプレーを実況したんだ?」

 

後 「実況というか、つまりこのデェ~~~!?は、周りがボールを貰おうと3人も動いているのに、それを全部囮にして、自分で撃つかぁ~~?の、デェ~~~!?ですかね。この辺りの表現とリアリティーがどうもまだ自信がなくて」

 

先 「それで自信持てる人間がいたらお目にカカりたいよ」

 

後 「え?今なにか言いました?ああ。カカぁ~。そう!カカァ~でしょ?彼の動きを実況するのが一番難しい。でも、すごく適切な表現を見つけたんです。ほら、ここですよ。ね?エジルがボールを持った!右のディ・マリアか?オオ~~!?ドドドォ~~~!ナンジャ~~~!?」

 

先 「よく解からん。説明してくれ」

 

後 「オオ~~?は、カカァ~がドドドォ~~と、カウンターアタックで全速で上がってきているところじゃないですかぁ~~?いくら先輩でもこれぐらいは解って貰わないとぉ~~」

 

先 「・・・・」

 
 

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後 「ドドドォ~~~!は、カカァの高速カウンターの動きを表現してみました。ドッホ~~!でも良かったんですが、やっぱりここはドドドォ~~~!でしょ?違います?」

 

先 「う~ん。ドドドォ~~でも、ドッホ~~!でも、ドッコ~~ン!でもええと思うねんけど・・・」

 

後 「いや、それは違いますよ!ドッコ~~ン!はベンゼマのミドルの時でしょう~?先輩ともあろうものがそんな事言うなんてショックだなぁ~」

 

先 「す・・・すまんのぉ~(汗) で?あの速攻カウンターから点を入れたあのシーンは、どうなってるんや?凄い聞きたいよなぁ~」

 

後 「あ!あれですよね?あれはハイライトでしたもんねぇ~。今のレアルのカウンターの恐ろしさ、美しさ、エゲツナさは、一種の芸術ですもんね」

 

先 「何か詩人になってきたやないか。で?どんな感じなんや?」

 

後 「え~っと・・・あ、あったあった。ここですね。ほら、相手のコーナーをセルヒオ・ラモスがボールカットしたところです」「レアルボールをカット!速攻か?ウ~~~ワッ!クゥゥ~~~!ウッソ!?ドホ~~~!ドッヒャ~~!ドバコ~~~ン!ガビチョ~~ン!デタァ~~~!ゴ~~~~~ルゥゥゥ~~~!」

 

先 「説明聞くのが怖いんやけど・・・」

 

後 「僕もどう言ったらいいのか、本能で実況しましたからねぇ~。ウ~~~ワッは、一旦ボールを落ち着かせずにそのまま前を向いたペペの凄さを素直に伝えたつもりです。クゥゥ~~~は、そのまま全員が速攻に移るための意志疎通の完璧さを僕なりの表現で言葉にしました。ウッソ!?は、先輩が言う「観客と一体となった」部分ですね。つまり「どんだけ強いねん!?レアル!」というか「すげーじゃん!レアル!」という感嘆符を視聴者目線で見たときの言葉はこれしかないと思いました。ドホ~~~!は、エジルとディ・マリアとクリロナが3者3様にスペースを見つけて、或いは作って、相手ディフェンスのラインをズタズタに翻弄した体を想像してもらえるとしたらこうなんだろうな・・・と。で、デタァ~~~は、ズタズタに引き裂いたラインのズタズタ度の出現を・・・。そしてもちろん最後のは海外のサッカーアナを参考にした僕の【GOOOOOOAL】です。どうですか?」

 

先 「自分、それ、ホンマに中継でやるんか?」

 

後 「ええ。完成度はまだ満足してませんが、基本的にはこの線で行こうと思います」

 

先 「で?この線でバルサとレアルをやったらどうなるんや?シミュレーションしてみたんか?」

 

後 「はい。もちろんです。今年のスーペル・カップを題材にして練習してみました。それがこれです。聞いてみます?」

 

先 「もうこうなったら自棄や!」

 

後 「バルサ、例によってポゼッションは上回ります。ウッ!ホ~!フフ・・・。フ~ン。オオ!?ヘェ~!オオ!?メッチャウマ!ゴォォ~~?オ?オオ?オオ!?アア~~~。レアルがボールを奪った!ドッヘェ~~!オオ!?ア?クリロナ!ウ~~ッワ!オ!エジル~!ウワッチャァ~~!ドドド~~!アア!ギリギリプジョル!オオ~?トオスカァ~~!?ア!ヒュ~~!オオ?オオ~~?ウ~~ン!キッツイナァ~~ソコハ・・・。オウオウ!マルセロ・・・ヘェ~~~!オ?オオ?オオオオ???ドッコ~~ン!ウツカァ~~?シカシィ~~!」

 

後 「どうです?かなりの線までは来てるんですが、あと何かもう一つ・・・が足りないと思うんですよねぇ~。何なんだろう?やっぱコーナーの時の迫力ある「ドッヘェ~~」なのか、それともボールの速度を表現する「メ~~ッチャハヤイ!ヤバハヤイ!」ってものを入れるのか・・・。悩みますよねぇ~。どう思います?」

 

先 「自分、もしかしたらホンマモンとちゃうか?」

 

後 「何言ってるんですか!おだててもダメですよぉ~!」

 

先 「何勘違いしてんねん!ホンマモンの天然モンや言うてるねん。天の後に「自然」の「然」を入れるんや」

 

後 「そうか!それ!それですよ!自然感です!なんだ!そうだったんだ!さすが先輩だなぁ~。何か目から鱗が何枚も落ちましたよ!そうかぁ~。自然感なんだ!それなら絶対に「ゴッツゥ~~~!」というフレーズですよ!そう!「ウワッチャ~~!ゴッツゥ~~!?ナンジャコレ!?」という実況です!先輩!僕、何か自信が湧いてきました!12月11日!見てて・・・いや、聞いててください!先輩の言葉通り、一観客の立場で!一サポーターになった気持ちで、僕頑張りますから!」

 

先 「(正真正銘、観客やっちゅうねん!もう完全に一般人やん!?それもTVの前の一般人やん!?)ダメダ・・・コリャ」

 
 

このネタは、2008年から2018年まで、スポーツナビのブログ「読裏クラブのワンツー通し」にて掲載された中で2011年10月28日にアップされた記事を加筆修正して再掲載したものです。メッチャ旧いネタですので今日現在で読んでも「あ?なに?これ?」てな感じなのですが、スポナビでアップしたネタをとりあえず全ネタこちらに引越しする過程として本日アップしております。どうぞご了承くださいますと同時に、芳香なワインを楽しむごとく、懐かしいネタを存分にお楽しみくださいませ(爆)

 

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