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「ブラックホールで死んでみる」

僕は宇宙が好きだ。そして宇宙の事を知ろうとすれば、星のことや、光のことや、重力のことを知ることになって、そしてそれらを知る事は物理学を知ることになる。僕はだから物理学も好きだ。もちろん宇宙物理学が一番好きなのだが、それを知ると当然アインシュタインの相対性理論にも出会うし、そうなれば必然的に量子力学にも出会ってしまう。

 

 

そんな僕が最近読んだ本で久々のヒットがこれ。題名は結構「ベタ系(この世界では)」なんだけど、内容はかなり秀逸。構成は今日深い科学ネタ(数字も科学の一分野として扱っています)のコラム集という型。本のタイトルは33章のコラムからそのままとっています。

ブラックホールで死んでみる―タイソン博士の説き語り宇宙論
 

ちなみに各章の題名は以下のとおり。

 

■1章 冷静になって、われわれの感覚というものを考える

■2章 地上でも宇宙でも同じ

■3章 百聞は一見にしかずか?

■4章 情報の罠

■5章 地面に棒を突き立ててできる科学

■6章 太陽の中心からの旅

■7章 惑星のパレード

■8章 太陽系の放浪者

■9章 5つのラグランジェ点

■10章 反物質の問題(アンチマター・マター)

■11章 揺るぎなく(コンスタントで)あることの重要性

■12章 速度の上限

■13章 弾道飛行をする

■14章 密度が高いとはどういうことか

■15章 虹の向こう側

■16章 宇宙に開いた窓

■17章 宇宙の色

■18章 宇宙プラズマ

■19章 炎と水

■20章 塵から生まれ塵に還る

■21章 恒星のなかで生まれる

■22章 雲に乗せて送る

■23章 ゴルディロックスと3つの惑星

■24章 水、水

■25章 生きられるところ

■26章 宇宙に存在する生物

■27章 人間が発した電波のざわめき

■28章 太陽系のカオス

■29章 次回の隕石接近

■30章 世界の終焉

■31章 銀河のエンジン

■32章 一気にやっつけろ

■33章 ブラックホールで死んでみる

■34章 世間で言われていること

■35章 数恐怖症

■36章 困惑する科学者

■37章 科学という砂地に残した足跡

■38章 闇よ、あれ

■39章 ハリウッドの夜

■40章 宇宙の始まり

■41章 聖戦

■42章 無知と知のあわい

 

どうです?面白そうでしょ?でもこれだけではなかなか解らないだろうから、ちょっと「お気に入り」の部分を抜き出してみました。35章の数恐怖症の一節。

 
 

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まずは飛行機から始めよう。コンチネンタル航空の座席に番号を付ける担当者はみな、13という数を怖れる中世の迷信をいまだに引きずっているようだ。

 

 

コンチネンタル航空の飛行機に乗って、13という番号の列を見たことはいまだにない。12番の次は、すぐ14番の列になっている。

 

 

では、建物ではどうだろう?マンハッタンはブロードウェイの5キロメートルほどの範囲に建っているすべての高層ビルに入ってエレベーターに乗ると、12階の次にいきなり14階が来ることに気づかれるだろう。

 

 

このような傾向は、古いビルでも新しいビルでも同じように見られる。これが醸し出す違和感を意識して、迷信に振りまわされていることを隠そうと、エレベーターを途中で分断して、1階から12階までの下側と、14階から上の上側の2段にしているところもある。

 

 

わたしが育った(ブロンクスの)22階建てのアパートでも、エレベーターは二つに分かれていたが、ここでは偶数の階にしか止まらないエレベータと、奇数の階にしか止まらないエレベータの二つになっていた。

 

 

わたしの子どもの時代の謎のひとつが、どうして奇数階用のエレベータは11階からいきなり15階に行き、そして偶数用のエレベータは12階から16階へ行くのか、ということだった。どうやらわたしの住んでいたアパートでは、奇数階をひとつ飛ばすのなら、それと対になる偶数階も一緒に、二つの階で一組として飛ばさねばならないということらしかった。

 

 

そんなわけで(開き直っていたのか)、13階についても14階についても、それが存在しないことに何の説明もなかった。もちろん、このような次第だったのだから、このアパートは実際には22階建てではなく、20階建てでしかなかったのである。

 

 

地下深くまで階があった別のビルでは、1階より下の階は、順番に、B,SB,P,LB,そしてLLとなっていた。

 

 

これはおそらく何もせずにぼおっと立っているしかないエレベータ内での時間、何か考える材料を提供しようと、わざとそんな命名がなされたのだと思う。

 

 

これらの地下の階は、本来ならば負の数で表示されるべきなのだ。こういう略語に慣れていない人のために説明すると、これらの階はそれぞれ、地階(Basement)、地下2階(Sub-Basement)、駐車場(Parking)、低地階(Lower Basement)、最下階(Lower Level)を意味している。確かに普通は、階を呼ぶのにこんな言い回しはしない。

 

 

1、2、3、4、5階という表示ではなくて、G,AG,HG,VHG,SR,Rという表示で階を表しているビルを想像してみていただきたい。

 

 

おわかりと思うが、それぞれ地面(Ground)、地面より上(Above Ground)、高い地面(High Ground)、とても高い地面(Very High Ground)、屋上の下(Sub-Roof)、そして屋上(Roof)の意味だ。

 

 

理屈からいって、負の階を怖れることはない。実際マイナス1階とマイナス2階がある、スイスのジュネーブにあるオテル・ド・ローヌや、階に0階やマイナス1階という名称を平気で付けているモスクワのナショナル・ホテルに宿泊している人々は、負の階を怖れたりしていない。

 

 

アメリカが暗黙のうちにゼロ以下のものをすべて否定していることは、随所に表われている。

 

 

この症状の軽度のものは、自動車販売業者に見られ、彼らは、「お買い上げいただいた車の代金を1,000ドル値引きいたします」と言うかわりに、「1,000ドルの『キャッシュ・バック』をさしあげます」と言う。

 

 

企業の会計報告書には、マイナスの記号に対する恐れが溢れている。負の数は括弧でくくって表示し、集計表のどこにもマイナスの記号が登場しないようにしている。

 

 

ブレット・イーストン・エリスが1985年に発表して成功をおさめた、ロサンジェルスの裕福な十代の若者たちが凋落していくさまを描いた小説(および、それを元にした1987年の映画)、『レス・ザン・ゼロ』(「ゼロ以下」というような意味)にしても、論理的には同じ意味の、『ネガティブ』(負の数は英語でnegative number)という題名にすることはありえなかったのだろう。

 

 

わたしたちは負の数から逃げまわっているのと同じく、少数からも逃げまわっており、アメリカでは特にその傾向が強い。

 

 

ニューヨーク証券取引所で売買される株が、見苦しい分数ではなくてドルの少数表示で登録されるようになったのはつい最近のことだ。

 

 

そして、アメリカの通貨は十進法であるにもかかわらず、われわれはそうとは考えていない。何かの値段が1.5ドルのとき、われわれは普通これを二つの部分に分けて捉え、「1ドルと50セント」だと言う。この行動は、かつてイギリスで、小数を避けて、ポンドとシリングを併用していたころの古い方式とそれほど変わらない。

 

 

娘が1歳3ケ月になったとき、わたしは、この子は「1.25歳なんです」と人に言っては屈折した喜びを感じていた。そう言われた人は、一旦別れてから、まるで何か高い音を聞いた犬のように、訝しげに無言で首を傾げて、わたしのほうを振り返るのだった。

 

 

人々に確率を伝える場面にも、小数を恐れる気持ちが顕著に表れている。確率は、「~にひとつの確率」と表現されることが多い。この言い回しは、ほとんどすべての人が直感的に理解できる。

 

 

ベルモント・ステークス(アメリカ競馬の三冠レースの一つ)の第9レースで、勝つのは見込み薄と見られている馬が勝つ確率は28にひとつである。一番人気の馬が勝つ確率は2つにひとつだ。だが、二番人気の馬が勝つ確率は「7つに2つ」と表現される。どうしてこの場合は「~にひとつ」と言わないのだろう?それは、ここでもその言い回しにこだわると、「7つに2つ」ではなくて、「3.5にひとつ」になってしまい、競馬場に来ている小数が苦手な人はみな、意味がわからず呆然としてしまうからだ。

 

 

小数は使われることなく、高層ビルには抜けている階があり、そして階によっては数ではなくアルファベットで表示されていても、わたしは生きていけると思う。これより深刻なのは、人間の脳は、大きな数どうしの相対的な大きさの関係を十分理解できないという問題だ。

 

 

1秒にひとつというペースで数を数えるとすると、100万に到達するには12日かかり、10億に達するには32年かかる。1兆を数えるには3万2000年かかるが、これは人間が洞窟の壁に初めて絵を描いてから過ぎた時間とほぼ同じである。

 

 

マクドナルドで売られているハンバーガーを1,000億個(かそこら)隙間なく一列に並べると地球を230周して、さらに、残った分を積み上げると、地球と月を往復する距離になる。

 

 

わたしが知っている最新の情報では、ビル・ゲイツの資産は500億ドルだそうだ。平均的な成人就業者が急いで歩いているときに、歩道から25セント硬貨は拾い上げるが10セント硬貨は無視するとすれば、(平均成人就業者の資産とゲイツの資産との比から推測して)ゲイツが道に落ちているのを見ても無視する金額は2万5000ドルとなる。

 

 

ここに挙げたような例はすべて、天体物理学者にとってはどうということもない頭の体操でしかないが、普通の人はこのようなことを考えたりしない。

 

 

しかし、それで何かを失ってはいないだろうか?1969年に始まって、何機もの宇宙探査ロケットが設計され、打ち上げられ、20年間にわたって太陽系の惑星が調査された。名高いパイオニア、ボイジャー、バイキングのミッションは、その一環である。そして、1993年に火星大気に突入したあと行方不明となったマーズ・オブザーバーもそうであった。

 

 

これらの宇宙探査ロケットはどれも、設計と製造に何年もの月日が費やされていた。どのミッションも、深遠かつ広範な科学的目標に果敢に取り組むものであり、たいていは10億ドルから20億ドルの税金が使われていた。

 

 

1990年代に運営人が交代した際、NASAは、「より速く、より安く、より良い」をモットーとする、予算1億ドルから2億ドルの、新しい宇宙船プログラムを導入した。それまでのものとは違い、これらの宇宙船は迅速に計画、設計ができるので、より明確に定義された目的のためのミッションが可能になった。当然、ミッションが失敗に終わっても、損失はそれまでよりはるかに少なく、宇宙探査計画全体に対する打撃もずっと少なくなる。

 

 

ところが、1999年、これらのより経済的な火星ミッションがたてつづけに失敗し、合計で約2億5000万ドルの税金が無駄となった。これに対して国民は、10億ドルのマーズ・オブザーバーが失敗したときとほとんどまったく同じ否定的な反応を示した。

 

 

ニュース・メディアは、この2億5000万ドルは想像を絶するほどの巨額の資金の浪費だと報じ、NASAには何か重大な問題があるのだと決めつけた。その結果NASAに調査が入り、議会では公聴会が開かれた。

 

 

わたしはこの失敗を弁護するつもりはないが、2億5000万ドルという金額は、ケビン・コスナーの失敗作映画、『ウォーターワールド』の制作費とそれほど変わらないのである。

 

 

また、スペースシャトルなら、たった2日間の軌道飛行費でしかなく、そして、以前に失われたマーズ・オブザーバーの費用と比べたら5分の1でしかない。このような比較ができず、また、この二つの失敗は、「より速く、より安く、より良い」のプログラムで想定している、各ミッションの失敗のリスクの範囲内なのだということを思い起こさなければ、100万ドルも10億ドルも1兆ドルと同じと思ってしまうだろう。

 

 

2億5000万ドルは、アメリカ一人当たりに換算すれば1ドル以下になってしまうとは誰も言わなかった。このくらいの金は、どの街の歩道にも1セント銅貨で落ちたままになっていること間違いなしだ。どこの街角も、大勢の人間がいたってみんなあくせくしていて、かがんで小銭を拾ったりはしないのだから。

 

 

どうです?知的でしょ?いいでしょ?こんな洒落た文章で、科学と宇宙と物理を語るこの本。絶対にお薦めです。

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